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【BookReview】『夜に駆ける YOASOBI小説集』

    07_おすすめ本・映画
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さて、先日、岡山を中心に活動されている理科実験ユニット「ScienceTeam りかっと! 」さんとオンラインでお話する機会がありました。
現役大学生の皆さん、ということで、雑談の中でおススメの本などお伺いしたのですが、その時にすすめて頂いたうちの一冊がこちら。

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夜に駆ける YOASOBI小説集 [ 星野舞夜 ]
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「夜に駆ける」も度々聴いていた曲ですし、「小説を音楽にするユニット」というフレーズにも興味があったので、購入して読んでみました。
以下、収録作品をネタバレなしで紹介していきます。


【夜に駆ける】


星野舞夜「タナトスの誘惑/夜に溶ける」

音楽と作品のギャップという意味で一番意表をつかれた作品でした。

音楽の軽快さと比べて、Youtubeで流れる映像に不穏な空気感があるので、気になっていたのですが、小説を読んで、そういうことだったのかと腑に落ちました。

小説の中の伏線がとても上手く機能していて、2度読んで、音楽を聴いて、映像を楽しんで、と「作品世界」を楽しむという意味では、一番楽しみ甲斐がありました。
あとがきのインタビューでも触れられてますし、本の特典として、ikuraさんによる朗読もついていますし、デビュー曲にして、代表曲なんだなと思います。




小説としては、伏線の妙を楽しみながらも、短編であるがゆえに駆け足になっているのは否めないのかな、と。
そういう意味では、ネット時代に即した短さ、なのかもしれませんが、一方で物足りなさも感じます。

本でじっくり読むなら、こんな作品も面白いかなと思います。

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死神の精度 (文春文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
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伊坂さんの描くクールでお洒落な世界観、短編が重なることで生み出される伏線、リズミカルな言葉選び、音楽への憧憬。
読者の想像をはるかに超える世界に連れて行ってくれる、小説として完成された作品だと思います。


【あの夢をなぞって】

いしき蒼太「夢の雫と星の花」

前半の女性パートと後半の男性パートで、同じ話の裏と表を見ている気持ちになるのが心地よい。
しかも、女性パートが続きが気になるところで断たれるので、最後の落ちが楽しみになる構成も良く出来ています。

何より、構成とアイデアで不思議をミックスすることで、淡い切ない青春のお話に終わらせないというのは、好感が持てます。
目に浮かぶ光景もとても美しいですしね。





【たぶん】

しなの「たぶん」

正直、ハッピーエンドに終わったファンタジー風の前作の次に、リアルな手触りのこの作品を置くのはどうなのかな、と思わなくもないですが(笑)

恋愛が常にハッピーエンドであるとは限りません。
結婚ですらゴールではなく、二人で過ごす時間のスタートであり、その先に何が待ち受けているのかは、誰にも(その二人にも)分からないのです。
その道程を運命と言うなら運命なのでしょうし、自分で選んだものだというのならそうなのでしょう。

恋愛や結婚が勉強と違うのは、相手がいる、ということです。
二人で奏でる音は、一人で奏でる音とは違いますし、相手の楽器によっても、どんな音が生まれるか、どんな演奏をするかは変わるのです。

この小説に収録されている4作品の中で、一番大人の恋愛のリアル、日常の一コマを描いた作品です。







【アンコール】

水上下波「世界の終わりと、さよならのうた」

小説集の中では「未発表曲」となっていますが、「アンコール」という曲で発表されています。
「世界が終ろうとする日」を描いたSFチックな作品。

歌詞は一番小説に忠実なのかもしれません。
それにしても、サビの「ありふれたあの日々をただ思い返す」は本当に「歌詞」だなと感じます。

世界の最後の日に奏でられる音楽がある、音楽で彩ることが出来る、というのは、音楽が出来る人の特権なのだと思います。
小説の中で、音楽で世界を救おうとする「友人」が出てきますが、それがたとえ理想論であっても、それは音楽が出来る人にしか出来ないこと。

歌の最後「もしも世界が終わらなくって...」のパートは、音楽としても歌詞としても、余韻があって良いですね。






【YOASOBI】


全体を通しての感想ですが、まずは、小説の書き手がバラバラだということに驚きました。
音楽の世界観を統一するならば、小説を書く「作者」もいるのかなと思っていたので。

「作者」が違うことで、歌の世界のイメージが幅と広がりを持ち、たくさんの人に届けられているのだな、と感じました。

一方で、個々の小説について言えば、正直どれもそんなに目新しい作品とは思えなくて。

たとえ予定調和であっても、どこに連れていかれるか分からない、先を読みたくなるストーリーというわけではなく、
「どこかで聞いたことがある」と思ってしまう世界観だったり物語で、先が読めてしまうストーリーではあります。

しかし、YOASOBIさんの楽曲が圧倒的であるがゆえに、音楽を聴き、小説を読み、映像を見るという立体的な「体験」が可能で、何度でも聴きたくなりますし、そうなると少し「原作」を読み返したくなります。

今回それぞれの小説へのリンクを張っている通り、ネット上では無料で小説を読めますし、むしろ画面で読んで、Youtubeで曲を聴いてと、ネット上で完結させる方が、効率も読後感も良いのかもしれません(縦書きか横書きかだけでも小説から受ける「肌ざわり」は変わってきます)。

それでも、やっぱり紙の本の手触りとボーナストラック感は捨てがたい(笑)
 『ハルジオン』も『群青』も原作小説が気になりますし、CDと抱き合わせで売られたら、きっとセットで買ってしまいますねぇ。

次の作品集も楽しみにしています!
    アート,音,音楽,小説家,夜

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